魔界の王子様は、可愛いものがお好き!
颯斗のひみつ
「ただいまー」
その後、学校が終わって、家につくと、俺は二階にある自分の部屋にむかった。
モノトーンでまとまった、オシャレなこの家は、三年前に建てられた一軒家。
一階には、リビングとダイニングキッチンがあって、お風呂とトイレと客間が一つ。あとは、お父さんとお母さんの部屋。
そして、二階には、俺と、妹の夕菜の部屋がある。
俺は、階段を上って、奥の部屋のドアを開くと、そのあと、ランドセルを下ろして、深くため息をついた。
「カッコいい……かぁ」
サッカーは、好きだし楽しい。
カッコイイとか、すごいと褒められるのも、もちろん嬉しい。
だけど、あんなに持ちあげられると、ますます言いづらくなる。
本当はクラブ活動だって、サッカークラブに入りたいわけじゃなかった。
だけど、俺がそのクラブを希望したら、絶対にバカにする人たちがでてくる。
『男なのに変だ』とか『恥ずかしい』とかそう言って、笑う人たち。
笑われたら嫌だし、すごく悲しい気持ちになる。
だから、ずっと本当のことが言えなくて、クラブ活動も、四年生の時からつづけて、サッカークラブに入ってしまった。
(まぁ、サッカーも好きだから、いいんだけどさ。……あ、そうだった!)
ふと思い出して、俺はランドセルから、あるものを取り出した。
黒いランドセルから、出てきたそれは──ピンク色の糸。
学校の裁縫箱から、こっそり持ち出してきたそれを机の上に置くと、俺は勉強机の一番下の引き出しから、小さなぬいぐるみをとりだした。
まっしろな毛、長い耳と、赤い瞳をした、手のひらサイズのウサギのぬいぐるみ。
俺は、それをみるなり
「ただいま、ララ!」
そういって、めいっぱい笑いかけた。
もう、わかったと思うけど、俺が本当に好きなのはララみたいな可愛いぬいぐるみ。
そして好きなことは、お裁縫。
俺は、子供の頃から可愛いものが大好きだった。女の子が好きそうな、ふわふわのぬいぐるみとか、おしゃれなアクセサリーとか、編み物とか。
でも、別に『心』が女の子なわけじゃない。
普通に、男の子のアニメや漫画だって見るし、ヒーローにも憧れるし、女の子の服を着たいと思うわけでもない。
心は、しっかりとした男。
だけど、それでも俺は、可愛いものが好きだった。