魔界の王子様は、可愛いものがお好き!
――え?
一瞬、耳を疑った。だけど、アランが魔導書に手をかざすと、今度は、花村さんの足元に赤い魔法陣が現れた。
「きゃ!?」
「アラン! 何する気だ!」
「だから、記憶を消すんだよ。まぁ、正確には、封じ込めるって言った方がいいかもしれないけど……どの道、ガイコツの追いかけられた恐ろしい記憶なんて、思い出さない方が彼女のためだよ。なにより、人間に見られた場合、記憶は消すことになってるんだ。それが、魔界の掟だから」
「……ッ」
「時の神よ。我が血の盟約のもと、その命にしたがえ。赤の書。第1番──記憶の消去」
瞬間、アランが呪文を唱えると、花村さんを赤い光が取り囲んて、その瞬間、花村さんはふっと目を閉じ倒れ込んだ。
「花村さん!」
「じゃぁ、颯斗! 結界をとくから、あとは上手くやってね」
「う、うまくやってって! あれ?」
慌ててアランを見れば、そこには、本棚があった。
見回せば、そこは図書室の中で、時計を見れば、花村さんから本を受け取った時間と全く変わってなかった。
校庭からは、学童で残る下級生の声が聞こえてきて、結界がとかれたから、戻ってきたんだと思った。元いた世界に……
「あれ、私……?」
すると、魔法陣の中にいたはずの花村さんが、そっと目をあけた。
「花村さん、大丈夫!?」
「威世君……あれ、私、なんで?」
起き上がり、きょとんと首を傾げる花村さんは、本当に、全部忘れたみたいだった。
ガイコツに追いかけられたことも、ララの事も、そして、俺が本当は可愛いものが好きだってことも
(じゃぁ、いつか俺の記憶も)
魔界の掟――アランは、人間の記憶は消すと、ハッキリ言った。
じゃぁ、俺の記憶も消されてしまうんだろうか?
消されたら、忘れてしまうんだろうか?
シャルロッテさんのことも
カールさんのことも
そして、アランと出会ったことも?