魔界の王子様は、可愛いものがお好き!
「本当に、並ぶのか?」
「うん……ねぇ、ハヤト。僕たちは、何も悪いことはしていないし、誰にも迷惑をかけてないよ。ただ、可愛いものが好きで、裁縫が趣味で、男だけでクレープ食べようとしているだけ。だけどそれは、決して恥ずかしいことじゃない。食べたいものを食べるのも、好きな物を好きっていうのも、人は自由でいいはずなんだ。だから」
勇気を出して──そう言われて、繋がった手をキュッときつく握りしめられた。
その手を伝って、アランの言葉が、まるで魔法のように染み込んでくる。
アランは、実践しようとしてるんだ。
さっきの言葉を──
「……っ」
その後、思い切って首を縦にふると、俺たちはクレープ屋さんの行列にならんだ。
凄く緊張して、まともに前が見れなかったけど、そんな俺の横で、アランは、お店の看板を指さしながら、俺に話しかけ始めた。
「ねぇ、ハヤト! あのクレープが一番おいしそう!」
内容は、そんなありきたりなものだったけど、そこから少し話を続けていると、近くにいたお姉さんが、俺たちに話しかけてきた。
「君たち、クレープ好きなの?」
そう聞かれて、アランが笑顔で「うん!」とかえすと、次第に話す相手が、2人から3人、3人から4人と増えて、いつしか、店先で語られる美味しそうなクレープの話に、道行く人たちが足を止めるようになった。
そして、その中には
「お母さん! 僕もクレープ食べたい!」
たまたま通りかかった男の子や
「なぁ、たまにはクレープとかどうよ?」
「あー、俺も食いたいと思った」
高校生くらいの男の人たちもいて、気がつけば、そこには、男も女も関係なく、クレープを食べたいという人達が、たくさん集まっていた。
(すごい、本当に……変わった)
そこにはもう、男がクレープを食べるの恥ずかしいなんて空気はなかった。
それは、世界が変わった瞬間だった。
アランが、空気を、世界を──変えた瞬間だった。