魔界の王子様は、可愛いものがお好き!
第5章 魔王さまの命令
ハーツと代償
それからまた、数週間がたち、アランが人間界にやってきて一ヶ月がたった頃。
魔王城では、冥界に飛ばされていた幹部たちが深く頭を下げていた。
「申し訳ありません! 魔王様!」
無理矢理、与えられたリフレッシュ休暇を終え、魔界に帰ってきた幹部たち。
しばらくバカンスを楽しんだ彼らの肌は、みんなツヤツヤだった。だが、その顔は、清々しいどころか真っ青。
ムリもない。一ヶ月も冥界に飛ばされていたあげく、アランだと思っていた少年が、ただの人間だったのだから!
「全く、お前たちには呆れる」
「あぁぁああぁぁ、申し訳ございませぇぇん!!!」
魔王が、深くため息をつくと、その場にいた魔族たちが、盛大に土下座をした。
「つ、次こそは必ずや!!」
「そうです! ちょっと、アラン様の張った結界が強力すぎて、屋敷には一歩たりとも近付けないんですけど!!」
「あと、シャルロッテとカールも強すぎるんですけど、次こそは必ず!!!」
「……もういい。お前達には、これをやる」
すると、魔王は再度深くため息をつくと、手の平に小さな魔法陣を作り出し、そのから数枚の黒い紙を取りだした。
カードサイズくらいの小さめの紙。
そこには、何かの魔法陣が記されていた。
「呪符だ。それを貼りつけさえすれば、シャルロッテとカールは物言わぬ、ただの人形になる。動かぬ人形が相手なら、ハーツを壊すくらいたやすいだろう。……いいか、まずは、あの人形達を壊せ。あの二人さえいなくなれば、アランは直に戻って来る」
「なるほど!! さすがは魔王様!!」
今度こそは!──と気合いをいれた幹部たちは、その後、バタバタと駆け出していく。
すると、それをみつめながら、魔王の側にいた、堕天使の女が語りかけた。
「ヴォルフ様、本当によろしいのですか? シャルロッテとカールを壊しても」
「なんだ、口答えする気か、ダリア」
「いえ、そういうわけでは……ですが、ハーツを壊せば、あの二人は跡形もなく消滅してしまいます。それに、あの二人はローズの……アラン様のお母様の形見でございます」
堕天使の女・ダリアが魔王に向けて、そういうと、魔王は更に冷たい言葉をはなつ。
「かまわん。例え母親の形見でも……壊すまでだ」