魔界の王子様は、可愛いものがお好き!

ヘアピンと告白



「ねぇ、ハヤト! コレ、いつ渡すの!」

 その後、学校が終わって家に帰る途中、いきなり飛び出してきたララに、俺は驚いた。

 今日の昼休み、花村さんも誘って一緒にサッカーをしたけど、その後から、ララはずっと腕輪の中から話しかけてきた。

 『渡すなら、今だよー』とか『なんで、渡さないのー』とか。おかげで俺は、授業に集中できず……

「ララ。学校では、話せないっていっただろ」

「だってー、昼休みのハヤト、スゴくかっこよかったから渡すなら今だと思ったのに、何でこのヘアピン、渡さないの!」

 そう言って、目の前に、ズイッと青いヘアピンを差し出してきた。

 この前、アランと一緒に買い物に行った時に見つけたヘアピンのキット。

 ララの服を二着作ったあと、何気なしに作ってみたはいいけど、作ってから思った。

 これを女子に渡すのは、めちゃくちゃ恥ずかしいぞ!って。

「あのなぁ、男子から女子に、物をあげるって、けっこう気を使うんだぞ」

「えー! でも、せっかく作ったのに~」

 残念そうなララ。

 そんなララをあしらいながら、俺は、ヘアピンを受け取ると、改めて、それを見つめた。

 図書室で話した時『本当は、前髪をあげたい』と言っていた、花村さん。

 だから、少しでも背中を押せればと思ったんだけど……

「やっぱり、渡せるわけないよな」

「威世くん!」

「わ!?」

 だけど、その時、突然、後ろから声をかけられて、俺はあわてて、ララを腕輪の中に隠した。

 誰かと思って振り返れば、そこには、なぜか、花村さんがいた。

 走ってきたのか、息を切らした花村さんは、俺の顔を見るなり

「昼休みは、ありがとう!」

 そう言って、頭を下げた。

 その言葉に、昼間のサッカーの話をしてるんだと思って、俺は住宅街の真ん中で立ち尽くした。

 もしかして、わざわざお礼を言うために、走ってきたのかな?

「あのね。今日、みんなと一緒にサッカーできて、すごく楽しかったの。威世くんのおかげ……本当にありがとう!」

 感謝の言葉を改めて言われて、ちょっと胸が熱くなった。

 よかった。
 花村さん、喜んでくれたんだ。

「でも……なんで、私がサッカー好きだって知ってたの?」

「え?」
 
 だけど、次に言われた言葉に、俺は思わず固まってしまった。

 あ、そうだった。

 この前のこと、アランに記憶を消されちゃたから、花村さん、覚えてないんだった!

(ど、どうしよう。一緒にガイコツに追いかけられたなんて言っても、信じるわけないし)

 でも、あの時『可愛いものが好きだ』って、打ちあけたあの言葉も、全部忘れられてしまったのかと思うと、なんだか少し、悲しくなった。

「あのさ……花村さん」

 夕方の通学路は、いつもより静かで、俺は、花村さんの顔を見つめると、思い切って──告白することにした。

「俺、花村さんに謝らないといけないことがある! 前に、俺が落とした、あのウサギのぬいぐるみ。あれ本当は、俺のなんだ!」

「え?」

 風か吹けば、普段は見えにくい花村さんの顔が、前髪の隙間からかすかに見えた。

 すごく驚いているように見えた。
 でも、俺は、しっかりと花村さんを見つめると

「ゴメン! あの時は、妹のって言ったけど、本当は俺のぬいぐるみで、俺、実は可愛いものが大好きで、裁縫が趣味で、クラスで言われてるようなカッコイイ奴じゃ全然ない!」

 ひとしきり話して、グッと息をつめた。

 でも、花村さんの返答は、もうわかっていたから、俺はそのまま、花村さんの前まで歩みよると、ポケットの中から、青いヘアピンを取り出した。

 ラッピングなんてされてない、むき出しのヘアピン。

 今思えば、袋にくらい入れておけばよかった。

「これ……」

「え?」

「あの時、花村さんが言ってくれた言葉、すごく嬉しかったんだ。それなのに俺、今まで、花村さんが一人でいるの分かってて、何もしようとしなかった。ゴメン。あれじゃ、無視してたのと同じだ」

 一番、謝らなきゃいけないことを謝れば、花村さんは、俺を見つめたまま黙り込んだ。

「ゴメン、本当に……もっと早く、勇気を出せていたら良かった。だから、これは、そのお詫びというか、お礼というか……俺の友達が言ってたんだ。『世界を変えるのは、たった一人の勇気から始まる』って。俺、今日、花村さんに声かけて良かったって思った。勇気を出して、よかったって思った。なんだか、変われた気がするんだ。だから、花村さんも、もし勇気を出したいなって思ったら、これ使って……前に、前髪あげたいって言ってただろ」

「……うん。もしかして、これ威世くんが作ったの?」

「あ、うん、そうだけど……て! 別にムリに使わなくても良いから! 気に入らなければ、捨ててもいいし!」

「あはは」

 すると、花村さんは急に笑い出した。
 まるで、お花みたいに可愛らしく。

「捨てたりしないよ。私の……宝物にする」

 そう言って、ヘアピンを受け取った花村さんは、大切そうに、手の中の包み込んだ。

 それを見て、なんだか凄く恥ずかしくなった。

 だって『宝物』は、ちょっと大げさなんじゃないかな?


「やっ~~と、見つけたわ!!」
「「!?」」

 だけど、その時、いきなり甲高い女の人の声が聞こえた。

 驚いて、キョロキョロと辺りを見回せば、屋根の上に人がいるのが見えた。

 前に、魔王配下の幹部だとか言っていた、あのカエル女とヘビ男だ!

「あ! お前ら!? 冥界でリフレッシュ中だったんじゃ!?」

「もう、終わったわよ!」

 あ、そっか。あれから一ヶ月たったから、幹部たち、みんな魔界に帰ってきんだ!

 あれ? でも、俺のことは、もうアランじゃないって分かってるはずなのに、なんでコイツら、俺のところに来たんだ?

「少年! 君は、アラン様のお気に入りらしいな!」

「……っ」

 すると、ヘビ男がそういって。

 あ、なんか、すっげー嫌な予感がする!!


< 87 / 100 >

この作品をシェア

pagetop