魔界の王子様は、可愛いものがお好き!
第6章 魔王城での戦い

お姫様と王子様


「アヤメ、出口みつかりそう?」

 ぬいぐるみのララ君が、私に話しかけた。

 肩の上にのって、きょろきょろと辺りを見回すララ君は、注意深く、魔族がいないか見張ってくれてる。

 あれから、部屋を出て、しばらく歩き回ったけど、お城の中はとっても広くて、どこがどこだがわからなかった。

(どうしよう、早く人間界に戻らないといけないのに)

「おい、そこのチビ!」

「ひゃっ!?」

 すると、いきなり声をかけられて、心臓が飛び上がった。恐る恐る、振り返れば、そこには、ライオンの顔をした大男がいた。

「そこで、何をしている!」

「え、あ! し、城の中で、迷ってしまって!」

 とっさに裏声をつかって、頭を下げる。
 すると、ライオン男は

「なんだ、新入りか。どこに行きたいんだ?」

 あ、思ってたより優しい。
 いやいや、そうじゃなくて。

「に、人間界に行きたいのですが、どうすれば」

「人間界? 何を言っている? 人間界に行くには、あの【魔界の門】を通らないと出られない。この世界じゃ常識だろう」

「え?」

 すると、ライオン男が窓の外を指さした。

 見れば、街の奥に、両開きの扉が見えた。このお城と同じくらいの高さがある、大きくて重そうな扉。

(うそ……っ。あんな大きな扉、私じゃ、絶対開けられない)

「ジャファー様~」

 すると、また別の魔族がやってきて、ライオン男に話しかけた。ていうか、この魔族、前に私達を追いかけた、ガイコツ男だ!

「なんだ、グール」

「アラン様が、お帰りになりました! 今すぐ魔王様のもとにお戻りください!」

「おぉ、アラン様が!?」

 え?──ちょっとびっくりして、私はフードで顔を隠したまま聞き耳をたてた。

 アランって、あの銀髪の男の子のことだよね? 魔王の息子で、威世くんのお友達の

「それで、シャルロッテとカールは?」

「まだ、生きてるようです。とはいえ、呪符を貼られているので、身動き一つできませんが」

「そうか……アイツらとも、ついにお別れか。いいヤツらだったのに。残念だな」

「そうですね。しかし、あの愛妻家だった魔王様が、奥方であるローズ様の作った人形たちを壊そうとするなんて」

「仕方ないだろう。アラン様も、もう十歳だ。いつまでも人形遊びをしていたら、次期魔王としての威厳にもかかわる」

 シャルロッテとカールって、さっきララ君が話してくれた人形のことだよね?

 良かった。威世君、壊してないんだ。

 だけど、その話を聞いていると、ライオン男たちは、私の側から離れていって……

 良かった。もしかしたら、このまま、あっちに行ってくれるかも?

 ──ビービービービー!!

 だけど、その時、いきなり城全体にサイレンみたいな警戒音が流れだした。

『人質にしていた人間の少女が脱走! 見つけ次第、捕らえろ! 繰り返す──』

 女の人の声が、城中に響きわたって、私は青ざめる。

 うそ。逃げだしたのがバレちゃった!?

「は! もしや、その娘は!!」

 すると、ガイコツが私に気づいて、私は慌てて逃げだした。

 息を切らしながら、長い廊下を必死に走る。だけど、気がつけば、あっという間に取り囲まれて

(あ、どうしよう……ッ)

 四方八方から魔族たちが現れて、私は壁際に追い込まれた。

 どうしよう、もう逃げられない……!

 一応、側に窓はあったけど、ここから飛び降りたら、命なんてないし

「アヤメ、窓を開けて!」
「え!?」

 だけど、そんな時、ララ君がそういって、私は驚いた。

「な、なにいってるの!?」
「いいから、早く!」

 とにかく開けてと、必死なララ君。私は、困惑しつつも、側にあった窓を開けた。

 すると──

「え? 威世(いせ)くん?」

 そこには、威世くんがいた。
 ペガサスに乗って、こっちを見上げてる。

「アヤメ、ララと一緒に飛び降りよう!」

 私の肩にララ君がしがみつく。すると、威世くんと目が合った瞬間、なんだか泣きそうになった。

 威世くん、助けに来てくれたんだ。

 私は、その後、思い切って覚悟を決めると、ララ君とを一緒に窓から飛び降りた。

 落ちる時は、凄く怖かったけど、そんな私を、威世くんはしっかり抱き止めてくた。

 男の子に抱きしめられるのは、なんだか、すごく恥ずかしかったけど、威世に会えて、すごく安心して

「ぅ、う……威世、くん……っ」

 その後は、一気に涙があふれてきて、私は、ありがとうの言葉を伝えようと、威世くんを見上げた。

 だけど

「部屋から逃げ出しちゃうなんて、案外おてんばな、お姫様だったんだね?」

「?」

 ニッコリ笑って、威世君がそういって、私は首をかしげた。

 あれ? 見た目は威世くんなのに

「………あなた、誰?」

 中身は、ぜんぜん違う人だと思った。
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