魔界の王子様は、可愛いものがお好き!

◇◆◇


「えぇ! じゃぁ今、魔王の所にいるのは、威世くんなの!?」

 その後、助けられた私は、ペガサスに乗ったまま、空の上で今の状況を説明されていた。

 威世くん、うんん、アラン君の話によれば、ここに来るまでに二人で計画を立てたらしい。

 威世君がアラン君に化けて、魔王や他の魔族をひきつけている間に、アラン君が、私を探し出して救出するという計画。

「ハヤトが、自分が(おとり)になると言いだしたんだ。魔界のことも、お城のことも何も知らない自分が闇雲に探すよりも、僕が探したほうが早いだろうからって……だから、僕はハヤトに化けては、ハヤトは僕に化けて、魔界に乗り込んできたってわけ」

 威世君の姿で、アラン君がニッコリ笑う。

 見た目は威世くんなのに、いつもと全く雰囲気が違って、ちょっと戸惑った。

「それより、よく思い出したね。僕が消しちゃったのに!」

「え?」

 すると、急に威世君の顔が近づいて、私は顔を赤くした。

 び、びっくりした。
 近い。なんか、すごく近い。

 あ、そっか、前髪あげちゃったから、顔がハッキリ見えちゃうんだ。

「でも、おかしいなー。なんで思い出したのかな?」

「あ、それは、私にもよく分からなくて……なんでだろう?」

「うーん……もしかして、よっぽど忘れたくない記憶だったとか?」

「え?」

「たまに、あるんだよね。魔法が気持ちに負けちゃうこと」

 気持ち──そう言われて、なんとなく、そうかもしれないって思った。

 ガイコツに追いかけられたのは、すごく怖かったけど、威世君と一緒にいたあの記憶は、忘れたくないと思ったから。

「ゴメンね」

「え?」

「勝手に記憶を消して。さっきハヤトにも怒られたんだ。本当にごめん」

「あ、うんん! 普通ガイコツに追いかけられたら、忘れたいって思うよ! アラン君は悪くないよ!」

「あはは、アヤメって優しいね」

「あ、あやめ……っ」

 急に、呼び捨てにされて、ちょっとびっくりした。

 そういえば、アラン君って魔界の王子様っていってたけど、王子様って、みんなこんな感じなのかな?

 でも、威世君の顔で、いきなり呼び捨てで呼ぶのは、やめて欲しい……っ

「あれ? 顔赤いけど、大丈夫?」

「だ、大丈夫! それより、早く威世君を助けに行こう!」

「うーん、そうなんだけど、まだ、はがせてないみたいなんだよね?」

「はがす?」

「うん」

 すると、アラン君は真面目な顔をして、魔導書を開いた。

 威世君の姿で、魔導書に手をかざしたアラン君は、ページの上に現れた魔法陣をみつめて、目を細める。

「シャルロッテとカールの波動が一切流れてこない。ということは、まだ呪符ははがせていないってこと。乗り込むなら、呪符をはがしてからだよ」

「そうなんだ。それって、簡単にはがせるの?」

「簡単ではないかな。相手は魔王(お父様)だし。でも、大丈夫! 例え、うまくいかなかったとしても、ハヤトだけは絶対に助け出すよ」

 そういって、アラン君が、またにっこり笑った。
 きっと私に心配かけないように笑ってくれたんだと思った。

「いたぞ! 人間たちだ!!」

 だけど、そこにまた魔族たちが現れた。
 それも、一人じゃない。30人くらい!!

「ありゃ、見つかっちゃったね?」

「ど、どうするの! あんなにたくさん!?」

「大丈夫だよ。あれくらい、僕一人で十分だよ」

 そういった、アランくんは、あまり焦ってないみたいだった。むしろ、すごく余裕そう。

「アヤメは振り落とされないように、僕にしっかり捕まっててね?」

「え?」

 瞬間、ペガサスが大きく翼を羽ばたかせて、空を駆け出した。

 私は、とっさにアラン君につかまったけど、もう色んな意味で、心臓がもたないと思った。
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