聖女となった悪女は隣国の王弟殿下に溺愛される
「でも、そう上手く行くかしら? いくら皇太子の罪が暴かれ廃位されたところで、聖女である私をあの皇帝陛下が手放すはずないわ」
「そうだね。……じゃあその時は、俺がキミを攫ってしまおう」
冗談めかしてそう言った彼だが、きっとその時は本当にそうしてしまうような気がして、思わず笑みが零れる。
「ふふっ、そうしたら私たちは地獄の果てまで追われる身ね」
「悪女ベアトリーチェと隣国の王弟の逃避行劇か……悪くないね。世界一美しい悪女様が側にいてくれる限り、誰にも負ける気はしないね」
「“聖女”なんかより、よっぽど私に似合う肩書ね」
見た目がどんなに変わっても、どこまで行っても私には悪女がお似合いみたい。
「まずはお披露目から始めないといけないね。さぁ、パーティー会場へ一緒に行こう」
そう言って差し出された手に、自分の手を重ねる。
「えぇ、そうね。私だけの騎士様」
触れ合った掌から伝わってくる彼の温もり。それが今は何よりも心強いと思える。
この先に待ち受けている未来は、悪女らしく地獄かもしれない。
それでも、今は隣りにゼンがいてくれる。それだけでこの先待ち受けるどんな未来も、きっと大丈夫だって思える。
「ねぇ、ゼン。もし逃げるなら海の見える町がいいわ」
「じゃあ海辺に大きな屋敷を建てよう。そこでキミに似た子供たちと幸せに暮らすんだ。どうかな」
「悪くないわね。でも私に似たら悪魔のような子に育つかもしれないわよ?」
「それは困ったな。そんな風に育ったら余計に愛してしまいそうだ」
「ふふっ、確かに。あなたは子供を溺愛しそうね。……でも、私をほったらかしにしたら許さないわよ」
「……承知しました。世界一美しい悪女様」
それはもしもの未来の話。
でも、そう遠くない幸せな未来の話。
静かなバルコニーに響くのは、幸せな未来を予感させる、二人の幸せそうな笑い声。