甘く落ちて、溶けるまで
「だったらどうぞ、他の人と仲良くすれば?私は別に困りませんよ」
ふんっと眼鏡をくいっと上げる私を見て、椿くんは笑いを堪えるように「ぷっ…」と口元を抑えた。
だから何が面白いのって何回言わせるつもり?
こっちは全くふざけてない。
至って真面目に答えたつもりが、どうやら椿くんの笑いを誘ってしまったようで。
「有栖さんって、ほんと飽きないなぁ…」
はにかみながらそう言った椿くんが、朝の光に包まれる。
それはさながら、何かのCMのワンカットのよう。
っ…もう、やだ。
顔がいいってだけで、なんでこんなにカッコよく見えちゃうの…?
「っ、なんとこと?」
少し目をそらして聞き返したら、一気に距離が縮まった。
「有栖さんの顔見てると、心が持ってかれるっぽい」
耳のすぐ近くで聞こえた、低くて甘いテノールボイス。