甘く落ちて、溶けるまで
まあまあ大きめの声で言ったのにも関わらず、椿くんのパスは止まることを知らない。
こちらはもう返す気などサラサラないのに、続けて打ってくる。
タイムつってんでしょ…!!?
キレそうになるのをなんとかこらえて、もう一度大声を張った。
「違っ…髪の毛が邪魔だから結ばせてって言いたいの!だから一旦ストップして!」
「あぁ、ごめんごめん。はい、いいよ」
やっとボールを自分の手元に収めた椿くんは、やっぱりいつものように笑っている。
…そんなずっとニコニコしてて疲れないのかな。
頭の片隅でそんなことを考えながらも、ジャージのポケットに入れてあったゴムを取り出す。
そして、長い黒髪を持ち上げキュッとまとめると、誰もが見とれる完璧なポニーテールの完成した。
私の経験上、女子のうなじにドキッとしない男はいないと踏んだ。
負かす…とは違うかもしれないけど。