甘く落ちて、溶けるまで

ちゃーんと優等生の有栖瑠奈は演じないとね。



パパに連絡がいったら、たまったものじゃないもん。



「はぁ〜あ。ホントめんどーい」



ようやく図書室の扉の前に到着して、独り言を漏らしたら。



「ダダ漏れてるけどいいの?」



「うわっ…!!?」



まだ教室にいるはずの椿くんが、問題集を抱えて後ろに立っていた。



うそ、なんでいるの…!?



いきなり椿くんが現れて、これでもかというほど心臓がバクバクしている。



そこら辺のお化け屋敷よりタチ悪いんだけど…!



「ふっ、ビックリしすぎじゃない?」



「っ、誰のせいだと…」



「えー?わかんなーい」



…なんかもう、怒る気も失せちゃうわ。



白々しくとぼける椿くんを無視して、ガラッと扉を開けた。



話しかけてくる椿くんも気にせず、誰もいない図書室の奥の席に座る。



「ひど。無視しないでよ、瑠奈ちゃん」



「………」



今さら名前呼びで照れたりなんかしない。



しないはず……なのに。
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