再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
午後1時50分。
来社予定10分前に、私は出迎えのために駐車場へ降りた。

さあどんな御曹司が登場することやら。と、ちょっと冷めた気分のまま車寄せに立つ。

2時ちょうどに走り込んできた黒塗りの高級車。
静かに私の所で止まったところを見ると、この車で間違いないらしい。

運転手が下りてきて後部座席のドアを開ける。
中から現れたのは高そうなスーツを着た男性。
もちろん、挨拶のために頭を下げていた私には足元しか見えていなかったが、チラッと見ただけで生地と仕立ての良さはわかった。

「いらっしゃいませ。金田からお出迎えを申し付かりました」
「それはわざわざありがとうございます」
聞こえてきた男性の声。

え、ええ。
その瞬間、私は体が硬直した。

嘘。
まさか、そんなことが・・・
違う、絶対に気のせいだから。
そう何度も何度も自分に言い聞かせゆっくりと頭を上げる。

「えっ」
先に驚いた声をあげたのは男性の方だった。

やはり、間違いない。
今私の目の前にいるのは5年前に別れた彼、三朝尊人さん。
もう二度と会わないと誓った人だ。

「どうぞ、ご案内いたします」

さっきまであんなに焦っていたのに、いざ会ってしまえば肝が据わる。
お互いが気づいてしまったからにはもうどうすることもできないし、どうにでもなれとやけくそで私は通常通りのお客様対応に戻った。

「わかりました、お願いします」
尊人さんの方も察してくれたらしく、私の後に続いて歩き出した。
< 10 / 167 >

この作品をシェア

pagetop