再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
「ここでいいのか?」
「ええ」

車を走らせてやって来たのはかかりつけのクリニック。
実家からもそう離れていない場所にあり、私も弟も子供の頃から見てもらっている小児科だ。
昨年代替わりして息子の健斗先生が医院長になったけれど、大先生の時代から変わらない丁寧な診察が人気で患者さんが絶えることがない。

「すみません、お電話した佐山です」
「あら、凛人君。お熱が出たのね」

定期的に通ってくる凛人のことは看護師さんたちも知っていて、さっそく体温計を渡された。

「ここのところ発作もなかったのにな」
声を聞きつけて顔を見せた健斗先生も、凛人の顔を覗き込む。

健斗先生は徹の大学の4年先輩で今年29歳。
若いけれど、患者さんからも人気のあるいい先生だ。

「最近調子よかったんですが・・・」
やはり母さんの風邪をもらったのかもしれない。

「ところで、こちらは?」
一旦凛人から視線を外した健斗先生が、尊人さんの方を見ている。

「この方は、私の会社の」
「三朝尊人と申します」

見るからにジャストフィットのオーダースーツ着てさっと名刺を差し出す尊人さんは、どう見てもこの場には不釣り合い。
本人がそのことに気づいているのかどうかは別にして、浮いているのは間違いない。

「仕事中に保育園から呼び出されたので、送ってもらったんです」
「そうだったのか」

それからしばらく、健斗先生は何か言いたそうに凛人と尊人さんを交互に見ていた。
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