再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
思えば、35年も生きてきて自分から女性に告白したことは無い。
もちろん恋人がいたこともあるし、好きになった人もいた。
でもなぜか告白されて付き合うことばかりで、自分から口にしたことは無かった。
そんな俺が、沙月のことはどうしても手放したくないと思う。
沙月の近くに男の影があると思うだけでイラつくんだ。

「なんで、私なの?」
泣いたせいだろうか鼻にかかった声で、沙月が聞いてきた。

「理由なんてないよ」
理由が分かれば、こんなに苦労はしない。

すると突然、俺の手を振りほどいて勢いよく立ちあがった沙月が俺を睨んだ。

「あなたは何もわかってないわ。私がこの5年どんなに、」
「どんなに?」
その先が聞きたくて俺は沙月を促すが、沙月は悔しそうに唇を噛んでしまった。

俺は向き合った状態からもう一度沙月を抱きしめた。
頭一つ分小さな沙月が、涙を隠すように俺の肩口に顔を埋める。

「5年前、物わかりのいいふりをして沙月と別れてしまったたことをずっと後悔していた。あの時、どんなことがあっても手放すんじゃなかった」
「・・・尊人」

昔付き合っていたころのように俺を呼ぶ沙月が愛おしくて、回した腕に力が入ってしまう。

「フフフ、痛いわ」
「ごめん」

顔を上げ泣き顔のまま笑う沙月の笑顔は、あの頃とちっとも変わらない。
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