再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
尊人が凛人をあやしに行ってほどなく、リビングから聞こえていた凛人の泣き声が聞こえなくなった。
珍しいな凛人がほぼ初対面の人に懐くなんてと思いながら、私は夕食の準備を急いだ。

「お待たせしました」
出来た夕食をダイニングテーブルの並べると、私は尊人と凛人を呼んだ。

「さあ、ご飯だぞ」
「はーい」
嬉しそうに入って来た二人はしっかりと手を繋いでいる。

不思議だな。
運命が少しだけ違っていたら、親子として暮らしていたかもしれない尊人と凛人。
こうしてみると二人はやはり似ている。

「ポテト、好きか?」
「うん、すき」

席に着き持ってきた子供用の食器にポテトを取り分ける尊人から嬉しそうに受け取る凛人を、私は複雑な思いで見ていた。

「そう言えば、この子の名前は?」
「ああ、凛人、です」
「そうか凛人君か」

三朝の一族は男の子が生まれると『人』字を使って名前を付けるのだと、以前聞いたことがあった。
だから子供が生まれた時に『凛人』とつけたのだが、まさか父親である尊人から名前を呼んでもらえる日が来るとは思っていなかった。

「凛人君、いっぱい食べろよ」
「はーい」
「ほら沙月も座って、一緒に食べよう」
「ええ、そうね」

生まれて初めての親子3人での食事は和やかに過ぎた。
決して名乗ることもないし、すぐに出て行くとわかっていても私はこの時とても幸せだった。
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