再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
「本当に、慎之介先生のお友達だったんですね」
会話が止まっタイミングでつい口を出た。

勤めて3年になるのに全然知らなかった。
慎之介先生から尊人さんの名前が出てきたこともなかった。

「信じてなかったの?子供の頃からの腐れ縁だよ。高校大学の頃は毎日のように一緒に遊んだんだ」
「へー、そうだったんですか」

それにしては全く聞いたことがなかったな。
親しいなら一度くらい会話に上がってもいいと思うけれど。

「実は5年前にアメリカの現地法人でトラブルがあってね、会社が1つなくなってしまうかもしれないくらい大きな損失が出そうになったんだ」
「5年前?」

まずその一言に引っかかって、その後沈んでしまった尊人さんの声が本当にまずい状態だったと感じられ、私は言葉を返せなくなった。

「ちょうど君と別れ話をした直後だったかな、トラブル収拾のためにアメリカに行くことになったんだ。それから今年の春まで日本とアメリカを行ったり来たり、1年ほとんどを向こうで過ごしていたんだよ。だから慎之介とも疎遠になっていた」
「そうですか」

この5年私も大変だったけれど、尊人さんも大変だったんだと初めて知った。
同時に、今更だけれどあの時別れてよかったと思えた。
そうでなかったら、私はもっと尊人さんの重荷になっていただろうから。

「すまない、お待たせ」
このタイミングで慎之介先生が戻ってきた。

「私はこれで失礼します」
慎之介先生が戻れば私がここにいる必要はないはずと、頭を下げてから退出した。
< 14 / 167 >

この作品をシェア

pagetop