再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
「なあ尊人」

俺の名前を呼んだっきり慎之介の声が聞こえなくなって、俺はマシーンを止めて顔を上げた。

「何だよ」

珍しい、慎之介が真剣な顔で見ている。

「お前が以前話してくれた彼女って、沙月ちゃんなんだろ?」

いきなり投げられた直球。
余りもストレートすぎて、反応ができなかった。

「その反応は、イエスだな」
「いや、別に、俺はなにも・・・」

親よりも長く一緒に過ごした慎之介に嘘などつけるはずがないのはわかっている。
どんなにごまかしたってすぐバレるに決まっている。
それでも、沙月とのことを口に出すわけにはいかない。

「まあ薄々想像していたがな」
「え、どうして?いつから?」

俺らしくもなく、動揺が出てしまった。
これじゃあ肯定したのと同じじゃないか。

「ずっと連絡をとっていなかったのか?」
俺の動揺なんて関係なく、まじめな顔で慎之介が聞いてくる。

弁護士って人種は人を疑うことが仕事で、その分人を観察することが得意だ。
嘘を見抜くのも上手いし、上手に誘導することだってお手の物。
最初から誤魔化せるはずはなかったんだが、完全にバレている。

「なあ尊人、一体いつから沙月ちゃんと連絡をとっていなかったんだ」
珍しくイライラした口調で詰め寄った慎之介に違和感を感じた。

「どうしたんだ、慎之介。お前おかしいぞ」

いつも飄々として本性を見せない慎之介らしくもない怒りが垣間見えて、俺の方が不安になった。
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