再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
「すまない。ただ、教えてくれ。お前と沙月ちゃんはいつから連絡をとっていなかったんだ?」
幾分声のトーンを戻し尋ねる慎之介は、やはりいつもより深刻な顔。

「いつって、もうすぐ5年になるかな。付き合っていたんだが、急に別れたいたって言われたんだ」
本来なら他人に話すようなことでもないが、慎之介の普段とは違う様子に黙っていることができなかった。

「5年も音信不通だったのか?」
「ああ」

もちろん沙月のことを忘れたことは無かった。
いつもどこかで気になっていた。
でも・・・

「慎之介、お前だってこの5年間俺がどれだけ大変だったか知らないわけではないだろう」
「まあ、それはそうだが」

この5年間はアメリカの現地法人の立て直しに必死だった。
体を壊さなかったのが不思議なくらい働きずくめだった。
そのことは顧問弁護士の慎之介ならわかっているはずだ。

「皮肉な運命だな」
ボソリと漏れた慎之介の言葉。

俺はその意味が気になって、慎之介の肩をつかんだ。

「何が言いたい?」
「別に」

嘘つけ。別にって顔じゃない。

「教えてくれ。沙月にかかわることなんだろ?」
「・・・」

いつもならどんな問いかけにもポンポンと受け答えする慎之介が、何も言わない。
そのことが恐怖を掻き立てる。

「頼むから教えてくれ」
俺は頭を下げていた。
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