再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
たった数ヶ月の間だったが、俺達は間違いなく幸せだった。
どんなに仕事が忙しくても、沙月との時間を糧に頑張れた。
このままずっと共に生きたいと本気で考えていた。
しかし、沙月にとっては試練の多い時間だったのだろう。
そもそも大学生だった沙月とMISASAの専務として働いていた俺では色々な状況が違った。
着ているもの、食べる物も、出かける場所も違っていた。
それでも彼女は必死に俺に合わせてくれた。
そんな沙月をかわいいなと思いながら、無理をさせていることが辛かった。

付き合ってしばらくしてネット上に沙月と俺の写真が載ったことがあった。
もちろん後ろ姿だけで、沙月の名前も出てはいなかったが、彼女にとってはショックな出来事だっただろうと思う。
そんな時でさえ沙月は何も言わなかった。

しかし、付き合って4カ月ほどたったある日、突然沙月が別れたいと言い出したのだ。
もちろん俺は驚いたが、その時点で1つ思い当たることがあった。
実はその数日前に俺のもとに送られてきた沙月と若い男の写真。
親し気に肩を寄せ笑う姿が俺の知らない一面を見せられたようでショックだった。
その直後に切り出された別れ話だったために、俺は沙月の申し出を強く拒むことができなかった。
今思えば、あの時「別れたくない」と言えばよかった。
どんなにみっともなくても、沙月にすがればよかった。
でも、沙月の苦しむ姿が容易に想像できて、俺にはできなかった。

沙月と別れた直後、会社の方もトラブルに見舞われた。
すぐにアメリカに向かうことになり、それから約5年俺は仕事漬けだった。

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