再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
「付き合いが続いているってことは、今でも彼のことを愛しているのか?」
何かを探るように、尊人さんが私の顔をまじまじと見る。

「愛しているっていうのとは少し違いますが、私にとっても子供にとっても大切な人です」
隠し事はしても嘘はつきたくなくて、一生懸命言葉を探した。

「男女の関係としての愛情はない?」
「うーん、愛情ではなくて、情はあります」
徹はかけがいのない家族だ。

その後、尊人さんが徹のことを聞いてくることは無く、2人でこの5年のことを話しながらゆっくりとお茶をした。

尊人さんのアメリカ生活は聞いているだけで過酷そうで心が痛んだし、慎之介先生との思い出話は面白くて声をあげて笑ってしまった。
私も父が亡くなったことや今の職場でのエピソードなどを話し、あっという間に時間が過ぎた。
正直、楽しかった。
尊人さんと約5年ぶりの再会はさぞ険悪なムードになるんだろうと思っていたのに、驚くほど穏やかで幸せな時間だった。
もちろん、これっきりだと思うからこそそんなことも言っていられるのだけれど・・・

「ねえ、沙月」
「はい」
5年前と変わらない呼び方に、反射的に答えていた。

「俺と、付き合ってくれないか?」
「えっと・・・」

これは、交際を申し込まれたってことだろうか。それともまたこうして2人で会いたいって意味だろうか。
どちらにしてもうなずくことはできない。

「すみません」
私は深く頭を下げた。
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