再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
「じゃあせめて連絡先を交換したい。そのくらいはいいだろ?」
「いや、それも・・・」

たった数時間の再会で、私の尊人さんへの思いは変わっていないんだと痛感した。
自分の気持ちだけを言うのなら、側にいたいとも思う。
でも、今の私はこれ以上尊人さんに近づいてはいけない。
そんな事をして、もし凛人のことが尊人さんに知られれば今の生活は失われてしまう。
絶対に、それだけはできない。

「結婚しているわけでもない彼に、そんなに義理立てするのか?」
「違います」

そんなんじゃない。
私はあなたと出会ってから、あなた以外の人を愛したことは無い。
そう言いたくて、でも言えなかった。

「連絡先を教えてくれ」
尊人はスマホを差し出した。

「ごめんなさい。できません」
私は座ったままうつむいた。

「どうしても?」
「はい」


結構長い時間沈黙が続いた気がする。
お互い何も話さず、ただ座っていた。

「・・・わかったよ。沙月が頑固なのは変わらないな」
「すみません」

納得はしていないようだが、尊人さんはあきらめてくれた。
これで万事解決して穏やかな生活が続くと思った。
しかし、世の中そううまい具合には進まない。
この日から数日後、私はそのことを実感した。
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