再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
私が凛人を妊娠したのは大学4年の時。
一応卒業はできたものの、大きなお腹を抱えた状態で内定をもらった企業に就職することもできず、私は職を失った。
その後出産し、1年ほど家にいて凛人の子育てに専念、翌年勤めだしたのがこの事務所だった。
正直、ここにたどり着くまでには随分苦労をした。
いくら大学を出たとは言っても、勤務経験もないシングルマザーを使ってやろうなんて会社は少なくて、すべてを包み隠さず話しそれでも採用をもらえたのはここだけだった。
そればかりか入っているビルに併設した保育所に凛人が入れるように手配までしてもらい、私は凛人と共に通勤できるようにもなった。
そんな金田法律事務だから、スッタフの出入りが少なくて長く勤めている人が多く、先生たちはもちろん事務スタッフも30代後半以上の人ばかり。
その中で唯一20代の私はみんなにとてもかわいがってもらっている。

「沙月ちゃんおはよう。今日も早いね」
「おはようございます。昨日はすみませんでした」
「気にしないでいいよ。お互い様だからね」

次々に入ってくる先生やスタッフたちは嫌な顔もせずに私を受け入れてくれる。
そのことが本当にありがたくて、私も仕事で返さなくてはと思ってしまう。
みんながそんな気持ちでいるから、この事務所は規模の割に業績がとてもいいんだと聞いたことがある。

「みんなおはよう、今日も1日よろしくお願いしますね」
「「はい」」

始業時間ギリギリにやって来た大先生がフロア全体に声をかけ、1日の業務が始まった。
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