再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
「大丈夫か?」

控室として用意された客室に入り、ペットボトルの水を差し出しながら尊人さんが私を覗き込む。

「ええ、大丈夫です」

どうやら私の動揺を察してくれたらしい。

「すまなかったな。部外者が入り込んでいるなんて思わなかった」
「いえ、そんな」
悪いのは尊人さんではないし、まだ何の被害を受けたわけでもない。
私が勝手に過去のトラウマを思い出しただけで、誰にも何の責任もない。

「大丈夫だよ。もう二度と沙月を傷つけるようなことはさせない。さっきの連中にも正式に抗議して、厳正に対処するつもりだ」
「そこまでしなくても」
まだ何も起きてはいないのに。

「だめだよ。俺は自分に誓ったんだ。もう二度と沙月を不安にさせない。どんなことがあっても沙月は俺が守るってね。だから、沙月は俺の横で笑っていてくれればいい。俺はそれだけで頑張れるんだから」
「尊人さん」

きっとこれは過去の自分への自責の念。
責任感の強い尊人さんのことだから、過去の私とのことに責任を感じてくれての言葉だろう。
そうは思っていても、込み上げるものがあり目頭が熱くなった。

「あれ、顔が赤いけれど、大丈夫?パーティーに出られる?」
「ええ、平気です」
私は大きく息を一つついて、立ち上げる。

今日ここに仕事に来たんだから、私は行くしかない。
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