再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない～運命なんて信じないはずでした～
「だからこいつが俺を突き飛ばしたんだって」

こんな場所で騒ぎを起こせば自分が困るってわかりそうな物なのに、かなりお酒が回っている男性はお構いなしで叫び続ける。

「お客様、どなたかお連れ様がいらっしゃいますか？」
さすがに私一人でここにいるのはおかしいと思ったのか、タオルを持って現れた女性スタッフが聞いてきた。

「えっと、それは・・・」

きっと今ここで尊人さんの名前を出すのはマズイ。
どんなことがあっても、尊人さんに迷惑をかけることはできない。

「お騒がせしてすみません。でも、大丈夫ですから」
「しかし、お召し物が・・・」
女性スタッフは気遣ってくれるけれど、私は情けなくて一刻も早くここを逃げ出した。

「私顔を洗いたいんですが、この場を離れても大丈夫ですか？」

かなり人垣が大きくなっているし、男性は私がケガをしたと叫んでいる。
このまま立ち去るのはまずいのかなと思うけれど、できればこの場に長居したくはない。

「ええ、大丈夫です。こちらのお客様はお酒に弱くて、過去にも何度か同じようなことがあった方ですので。あとはこちらで対応いたします」
本来ならスタッフとして絶対に漏らすはずのない話を、私に同情したのか話してくれた。

「そうですか、ではお願いします」

こうして、私は逃げるようにその場を立ち去った。
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