再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
お金持ちのお坊ちゃん。
その言葉だけを聞くと、いいイメージは浮かばない。
お金の苦労もせずにお気楽に遊んで、何の努力をしないで経営者の席に着く無能な人間。
元々お金持ちに良い印象を持っていなかった私は、その程度の認識しかなかった。
でも、彼は違った。

年齢は当時30歳だったから今は35歳で、ちょうど慎之介先生と同い年。
日本を代表する財閥の御曹司で、身長は185センチ。
男性にしては色白で髪は茶色のくせ毛、その涼やかな目元とスーッと通った鼻筋が印象的なイケメン。
当然女性にだってモテるはずなのにチャラチャラしたところがないまじめな性格で、柔らかな物腰と相まって経済界のプリンスなんて言われていた。その人気は今でも変わらない。
普段テレビを見ない私でも、時々ネットの記事で顔を見かけるくらいだから、世の中にはかなり顔が知れ渡っていることだろうな。かわいそうに。

「仕事の依頼に来たお客さんじゃないから、コーヒーだけ出してくれればいいよ。そんなに長居もしないだろうし」
「はい」

珍しいな。
慎之介先生だって公私混同するような人ではないのに。
事務所に呼ぶってことは何か用事でもあるのかと思ったけれど・・・

「とりあえず内密な面会ってことで、出迎えを頼むよ」
「承知しました」

個人的な来客だと言われたからにはこれ以上しつこく聞くこともできず、私は返事をした。
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