再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
「尊人さん、怒っていますよね?」
どう切り出そうかと随分考えたけれど、こんな聞き方しか思い浮かばなかった。

「機嫌がいいとは言えないかな」

やっぱり。
あれだけ注目を集めてしまったものね。
仕事の席だっただけに本当に申し訳ないと思っている。

「すみませんでした」
私は素直に謝った。

「何が悪かったのか、ちゃんと分かっているのか?」
それでもなお不機嫌そうに私睨む尊人さんは、苛立っているように見える。

「酔っ払いに絡まれて、」
「それは沙月のせいじゃない」
それはそうですが・・・

「仕事で来ていたパーティー会場で騒ぎを起こして」
「だから、沙月は被害者だろ?」
そうだけれど・・・

じゃあなぜ私は怒られているのだろう。

「もしかして、わからない?」

私だって好き好んであの状況になったわけではない。

「俺は、困ったときに俺を呼ばなかったことに怒っているんだ。言ったはずだろう、沙月のことは俺が守るって。それなのに沙月はいつも一人で行こうとする」
「それは、尊人さん迷惑を掛けたくなかったからで・・・」
私なりに気を使ったつもりだった。

「そんな気遣いは不要だ。だから、二度とコソコソするな。いいね」
「はい」
まるで叱られる凛人のようだけれど、少しだけうれしくもあり私はおとなしくうなずいた。
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