秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
乱れた息を整えようと、深呼吸をする。
熱を持った唇が震えており、思わずぎゅっと口を結んだ。
秋人とキスをしてしまった。
でも……後悔はしていない。秋人への想いを見過ごすことはもう、限界だ。
秋人はため息を吐き、ネクタイを整えてドアノブに手をかける。
デスクに戻って受話器で相手が誰なのか確認することも、今は億劫のようだ。
「お待たせしました」
秋人がドアを開け、来客の対応に向かう。
妙な空気を悟られないよう、身なりを軽く整えていたら、秋人の気さくな声が聞こえてきた。
「宮森と父さんじゃないか。急にどうしたんだ」
え……?
ドクッと心臓が止まりそうな音が体に響く。
その瞬間、体がその場に貼り付いたように動けなくなった。
「秋人さま、驚かせてしまって申し訳ありません」
「梢さんの件で少し話があってな。秋人が会社にいると小耳にはさんで、出張の帰りに寄ってみたんだよ」
聞き覚えのある少し高めの声は、宮森さんだ。
そして――……この威厳のある声は、あきらかに秋人の父の声。
逃げなくちゃ。
突然思考が鮮明になり、私は近くに散らばっていた荷物を急いでかき集める。
物音に気がついた秋人は、驚いた顔でこちらを振り返った。
「結愛、急にどうしたんだ」