秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
既に部屋に半分戻っていた体をもう一度父に向ける。
「何度も言うが、俺は結婚しない。気が変わって結婚するとなっても、相手は自分で決める」
「自分の立場にあった女性を選べと言っているんだ。あれもこれもだめ……お前は駄々をこねる子供か? 葛城家の顔なんだぞ」
父には、雪平梢以外にも山のように令嬢との縁談を持ってこられた。
仕事上の付き合いもあって仕方なく、見合いの席についたこともある。
だがそれも、時間の浪費にすぎなかった。
心にはずっと結愛がいて、結愛を求め続けていたのだ。
誰とも交際する気も起きない、まして、結婚なんてとんでもない。
今は、結愛が傍にいるのだ。なおさら無理だ。
彼女以外に結婚は今の段階では考えられない。
「ああ顔だ。だからこそ、俺は自分の目で判断した、確かな女性と結婚する。この時代に、家柄がどうとか言ってる体制が古すぎる。葛城堂もだがHappit生命だって、今後何があって傾くか分からないだろ」
そう告げると、父は見るからに怒りで表情を歪めた。
それを見ても、俺は努めて平静を保つ。
今の葛城堂の経営を動かしているのは俺だ。何も言わせない。
「秋人さま」
「……なんだ?」
呼び止めた宮本を見ると、神経質そうな細い目が三日月になっていた。
「秋人さまが女性とあそこまで親し気な様子を見たのは初めてで驚きました。もしかして三年前に一緒に暮らしていた方ではないですか」
宮森に当時付き合っていた彼女……。
結愛と暮らしていたことを、たしかに会話の中で話したような気がしたが、それとなく伝えただけで、覚えていたことに驚く。
「だったらなんだ? もう今日は帰ってくれないか」
「かしこまりました。……旦那様、秋人さまもお疲れのようですし、このあたりで失礼しましょう」