秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています

姿形が、どこからどう見ても宮森だ。

それに早々に立ち去ったあの車は、父が送迎用として使っている外車で間違いない。

これはただの偶然なのだろうか。

それにしては……出来過ぎているような気がする。

結愛が働いてる店に、なぜ宮森がわざわざやって来る?

俺は、結愛を紹介したことがないのに。

車がいなくなったことを見計らい、先ほどとはまったく違う感情を抱いて、店へと来店する。

「いらっしゃいませー! あっ……」

結愛の同僚の山根という女性を見つけ、笑顔を作る余裕もなくまっすぐ向かった。

「葛城様、申し訳ありません。瀬名は今日、休みをもらっていまして……」

「ああ、ありがとうございます。それで……今さっき店から出てきたスーツの老人は、結愛に会いに来たんですか?」

「えっ……?」

山根さんは警戒心を露にし、強張った表情でこちらを見上げる。

「彼はうちの秘書のひとりなんです。今店から出てきて驚きまして」

笑顔を作り、気さくな口調を心がける。

すると彼女は安堵したようで、表情をやわらげた。

「そうだったんですね! はい、瀬名に会いに来たようで、いないと伝えたら早々に出ていかれましたよ」

「なるほど。ありがとうございます」

口角が引きつっていくのを感じながら、挨拶をそこそこに店から出た。

宮森は結愛の存在を知っているらしい。

いったい、いつからだ?

ほんの数日前に結愛を一目見て、調べ上げたのか。

そんなことは可能なのだろうか。

それとも、もっと前から知っていたのだろうか。

俺の知らないところで結愛に接触していたのなら、許さないが。

コインパーキングに停めていた車に乗り込んですぐ、雪平に連絡をとる。

「……お疲れ様。いきなりですまないが、今晩時間はあるか? 君と食事がしたい」
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