秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
私たちの花
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十二月二十四日――今日は世間でいう、クリスマスイブ。
肌を刺す北風は人々の興奮といっしょに空気を一掃する。
今日は多くの人にとって特別な日、花も飛ぶように売れる。
この日出勤していた私は、客足が止まらない来店ラッシュに追われ、いつもより一時間遅い十九時に退勤の打刻を押した。
「結愛ちゃん、遅い時間まで本っ当にごめんね! あやめちゃんが待ってるのに」
「いえいえ、とんでもないです。本番の明日はお休みを貰っていますし、あやめにも説明してるので」
バックヤードで先輩とそんな会話を交わした後、機能的な真っ黒のダウンコートを着て、カシミヤの白いマフラーを口が隠れるまでぐるぐる巻きにし、既に夜の帳が下りた六本木の街に紛れ込んだ。
「ふぅ……寒い」
早く帰って、あやめが眠る時間にはなんとか間に合いたい。
数週間前にいくつか買ったクリスマスの絵本、一冊は読んであげたいな。
母も父もいるし、クリスマスのごちそうを食べたりして寂しくはないかもしれないけれど、母親がいるのといないとではやはり気持ちが違うと思うから。