秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
ズキッと胸が痛み、表情が歪みそうになるのを必死で耐える。
もしかして、台車とぶつかりそうになった女性と……?
なんとなくだけれど、秋人も彼女も親しげなように感じた。
私が妄想を広げそうになっているところ、山根さんはふっと表情を和らげ、腕時計に視線を落とした。
「店長からの又聞きだから定かじゃないけどね、 ……じゃ、そろそろ開店時間だから水やりは終わり」
「はい」
山根さんの後についていきながら、ポケットの中で秋人の名刺を握り締めた。
いずれこうなることは、分かっていた。
そして私だって、別の人と結婚することになるかもしれない。
そう頭では理解できているのに、心が追いつかない。
秋人にあのとき、再会したくなかった。
再会さえしていなければ、結婚する事実を知らずに傷つくことはなかったのに……。
朝礼を簡単に済ませ、開店時間の十時になる。
都内の一等地に位置する大型店ということもあり、開店と同時にある程度の来客があった。
このまま午前中いっぱいは店頭で販売に徹し、午後からはクリスマスに販売する予定のリース作りを行う予定だ。
何もせずにぼうっとするより、仕事をしている方が気が紛れる。
朝一の来客が選んだ花をラッピングしていると、こちらに向かって足音が近づいてくるのに気づいた。
「あっ、いらっしゃいま……」
「結愛」