秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています

秋人の父に呼ばれ、体が強張る。

ゆっくりとこちらを振り返った秋人は、私を気遣うように目配せする。

「大丈夫か、結愛」

「……うん、平気。ちゃんとご挨拶させて?」

気を強く持ち、秋人に笑顔を向ける。

彼は遠慮がちに小さく頷くと、私と秋人の父が対面できるように横に移動してくれた。

「ご無沙汰しております。ちゃんとご挨拶ができておらず、申し訳ありません」

深く頭を下げ、秋人の父の出方を伺う。

以前社長室ですれ違ったときは、ろくに顔を見ずに逃げ出るような態度をとってしまった。

こうして対面するのは実に三年ぶりだ。

すると秋人の父は私に向かって手を差し出し、顔を上げるように告げた。

「しばらく、君の動きを見させてもらった。私たちのイベントを盛り上げてくれてありがとう」

「え……?」

体を正した私に、温かい眼差しが向けられる。

秋人の父は、そのまま私たちの後ろにあるフォトスペースに視線を投げた。

「時間がない中で、よくここまでのものを作ってくれた。機転を利かせ、花をプレゼントするという発想も素晴らしい。君はよくできた女性だ」

投げかけられた温かい言葉たちに、急に涙がこみ上げる。

どうして……? 私のこと、絶対によく思っていなかったはずなのに。

そう訊ねたかったけれど、口を開くと涙がこぼれてしまいそうだ。

すると秋人の父は、私と秋人を見渡して深く頭を下げた。

「若い君たちを苦しませて悪かった。私は、葛城堂を繁栄させることばかりに頭が向かって、何も、大切なことに目を向けられていなかった。私こそ、葛城堂にふさわしくなかった」
< 167 / 176 >

この作品をシェア

pagetop