秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
秋人はブラックコーヒーを一口飲んで、口火を切った。
表情は先程から全く変わらないけれど、
艶のある声は、店内のクラシック音楽と一緒に悲しい響きを含んで、私の耳に届く。
「ごめんなさい。あのときは驚かせて」
紅茶を胃に流し込み秋人を見ると、彼はほんのわずかに目を細め、真意を問うようにじっと見つめていた。
「理由を聞かせてほしい。知らないうちに君を傷つけてしまっていたのか、それとも俺に気持ちがなくなったのか……どんな内容でもいいから知りたい。俺に落ち度があったのなら、ちゃんと謝りたい」
秋人にはなんの落ち度もない。
彼はいつも全身全霊で私を愛してくれた、大切にしてくれた。
傷ついたときは誰よりも優しく包んでくれた。
彼がそうであったように、私も彼を心から愛していた。
「葛城堂の御曹司だと、なんでずっと隠していたの」
秋人は私の問いに、わずかに目を開く。
動揺を確信した私はさらに先程思いついたシナリオで、彼を追いつめた。
「秋人が海外に行っている間に、偶然知っちゃったの。一年以上も付き合っていたのに、何も話してくれないなんて私のこと信用してないんだって、ショックだった」
秋人は何か言葉を吐こうとしたけれど、躊躇うようにして口をつぐんでしまった。
本当は彼なりの理由があってのことだと、十分理解している。
けれど、これ以上の言い訳が思い当たらないのだ。
「一般人の私とあなたじゃ釣り合わない。それぞれ身の丈にあった相手と一緒になるほうが幸せだと思った。だからあなたがいないときに、家を出たの」