秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
一気に言い終えると、私はお財布からお札を一枚テーブルに置いてその場に立ち上がった。
秋人とこれ以上いるのは危険だ。絶対に感情に流されてしまう。
しかしすぐに、前から伸びてきた手に動きを止められてしまう。
「秋人……私のことは忘れて」
消え入るような声で告げると、彼はさらに腕を握った力を強める。
「忘れられるわけない。将来を誓い合ったのに……」
悲痛な声に思わず後ろを向くと、彼はすがるような眼差しを私に向けていた。
どうするのが正解なのだろうか。
本当は今すぐに彼の腕に抱かれてすべてを打ち明けてしまいたい。
でも私は、彼に何も告げず勝手に消えて、勝手にあやめを産んだ。
実の子がすでに二歳を超えていると知ったら、秋人はどんな反応をするのだろう。
「ずっと好きだった」
「……っ」
これ以上彼の手の大きさや温もりを感じるのが辛くて、握られた腕を振りほどく。
「さよなら、秋人」
「結愛!」
喫茶店のドアを開けると、既に夜の帳が下り街の光は輝いていた。
悲壮感が増してきたので視界を落とすと、履いていたスニーカーが薄汚れていることに気付いた。
私の前に現れた秋人は格別に美しかった。
磨かれた靴に、高級そうなスーツ。頭から足先まで隙のない身なり。
私も秋人も、あの頃と大きく変わったことは事実だった。
でも、気持ちは互いに繋がったままだったなんて。
胸を熱くさせるこの思いをどう解消したらいいか分からず、私は思わずその場から走り出した――…。