秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
――結愛と出会ったのはもう五年も前になる。
美大に通っている彼女がアルバイトをしていた花屋に、俺が訪問したのが始まりだった。
四年生大学を卒業し、仲間たちとフリマアプリの会社を立ちあげたばかりで、人脈を広げるために祝いの席に呼ばれれば積極的に出席していた。
この日も、知人のバースデーパーティに呼ばれ、慌てて花屋に入ったのだ。
初見の結愛は、花屋のエプロンにジーンズ姿、栗色の髪をひとつに結び、化粧っ気のない素朴な少女だった。
『一万前後のブーケをお願いしたいんですが、今から可能ですか』
『はい! お時間に三十分程度頂戴していますが、大丈夫ですか?』
『ええ、待っています』
結愛はブーケを渡す相手の情報を俺から聞き出しながら、花を次々とピックアップしていく。
『彼女のイメージは淡いピンクかな、落ち着いているし』
『そうなんですね、じゃあこの辺のガーベラとコスモスを使っていきます。お渡しする方は彼女さんですか?』
『いえ、会社の取引先のかたで』
結愛は明るく俺に笑いかけると、大急ぎで作業に取り掛かった。
そこは街の小さい花屋といった感じで、店主の外に結愛しか見当たらなかった。
正直な話、まだ高校生にも見えるような少女がつくるブーケは、完成がだいぶ不安だったが、三十分後……それは見事に覆された。
『海外で活躍されている女性ということで、豪華な感じを出してみましたが大丈夫ですか?』
『……見事だな』