秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
しばし押し問答を続けたが、最終的に俺が折れて結愛をひとり家に残しておくことになった。
『困ったらすぐに連絡してくれ。いつでも繋がるようにしておくから』
『うん! ありがとうね、秋人。気を付けて行ってきて』
体が辛そうな結愛の力ない笑みを最後に、俺は玄関の扉を閉めた。
このときが、運命の分かれ道になるなんて知らずに……。
翌日、薫は水死体で発見され、家族一同で遺体が安置されているイタリアに向かうことになった。
数日間滞在したのち、混乱の渦にいる葛城家に薫の遺体とともに俺は戻った。
結愛とその間、連絡は取っていたが葛城家や薫のことは話していない。
体調が悪い彼女にさらに心配をかけたくなかったというのが一番だった。
アクシデントが起き、しばらく海外にいなければならず家に帰らないと告げたまま……。
葛藤はあったが、彼女にはウソをつきたくないし、戻ったら葛城家のことや、薫のことを詳しく伝えると思っていた。
結愛なら、彼女なら大丈夫だ。
彼女はしばらくして、体調がよくなったと連絡をくれた。
心配ではあったものの、俺はすぐに家に戻ることができなかった。
薫の死を悲しむ暇もなく、俺はすでにいち経営者であったために、親族や役職の者たちの後継者論争に加わることになり、今後の葛城堂をどうしていくか話し合いの場にいなければならなかった。
俺が葛城堂を継ぐ話も出て、話があらぬ方向にいった。
自社のビジネスパートナーとの話し合いも設けたり、とにかく目の回るような日々が一週間続いた。
『……秋人、薔薇の花束届いたよ。ありがとうね』