秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
笑顔で病院を出て、秋人にメッセージで伝えるよりも電話で伝えようか、そんなことばかりを考えていた。
浅はかだったけれど、このときは自分の将来のことや、自分たちを取り囲む環境のことまで頭が回っていなかった。
ただただ赤ちゃんがお腹に来てくれて嬉しい。絶対に産みたい、それだけだった。
しかし悪阻は、思い出したように私を襲ってきた。
しばらく駅のトイレにこもり、落ち着いてから時間をかけて自宅に戻る。
秋人に連絡をする余裕さえなかった。
ふたりが住むマンションに戻ったのは、すっかり日が暮れた夜の十八時頃だった。
『あの……突然失礼いたします。瀬名、結愛さまですよね?』
『え?』
マンションのエントランスに入ってすぐ、スーツ姿の年配の男性が走って私のもとにかけよってきた。
『私、こういうものです』
『葛城堂……』
男性に渡された名刺を見て、動きを止める。
【葛城堂 第一秘書 宮森 昭】の字を見て、秋人に関係する人物なのではと直感が走った。
男性は遠慮がちに私に微笑みかけると、さらに先を見るように顔をあげた。
このときタワーマンションに住んでいたため、エントランスの奥まった場所に来客用の大きなソファがあった。
そこには数人のスーツ姿の男性が座っており、ジッと息を顰めるように私たちを見ていたのだ。
ただならぬ光景に、緊張が走る。
『秋人さまに関してお話があります。少しお時間を頂きたいのですが』