秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
頭を下げ続ける葛城堂の方たちの想いがひしひしと伝わってきて苦しかった。
しばらく葛藤したけれど、やはり私も譲れず、その場で答えを出すことはできなかった。
後日宮森さんへ返事をすることで同意してもらい、一同がマンションから出る。
すると突然、秋人の父親は足を止め、見送る私を振り返った。
「……失礼。まさか妊娠は、していませんよね?」
「っ!」
彼の鋭い瞳は厳しく私に問いかける。
咄嗟だった。
私は動揺を悟られないようにして、小さく首を振った。
もし『はい』と言ったら、堕すことを要求されのは目に見えていた。
秋人の父親は私の返事にほっとしたように眼差しを緩め、宮森さんたちのあとを追う。
この子だけは絶対に守りたい。秋人との赤ちゃんなのよ……?
ふたりの部屋に戻ってすぐに、私は秋人がいつも使っている布団に入って、声をあげて泣いた。
離れているのに、私は彼の温もりに包まれている錯覚が起きた。
今だってしっかり、心と心が繋がっている。
ちゃんと愛し合っている……。
考えて考えて、彼のためを想って別れることは、身を裂かれるほど辛いことだけれど、それも愛だと思った。
私が存在することで、彼が葛城家の中で苦しんだり、悲しんだり、ひどい目にあったりするのはそれこそ耐えられない。
けれど、お腹の子だけはどうしても諦められない。
考えても考えても、私の答えはずっと一緒だった。
だから、私はあやめを妊娠していることを誰にも告げず、秋人の前からいなくなった。
そうすることが、みんなを幸せにできると……エゴかもしれないが、信じたかったのだ。