秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
縮まる距離
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十一月二十日。
私は、またひとつ歳をとった。
今日の最高気温は十度で、十二月中旬並みの寒さのようだ。
押し入れから引っ張り出したキャメル色のコートを着て、目の前に聳え立つ大きな銀座葛城堂の正面玄関を道を挟んで眺めていた。
――もうクリスマスなんだ。そろそろあやめのプレゼントを決めないと。
葛城堂は人生で、片手に収まるほどしか訪問したことがない。
もちろん、玄関をこうまじまじと見たことだってない。
目の前の重厚な玄関には、大きなクリスマスツリーと巨大なプレゼントの模型が置かれ、
天井からは、五メートルはありそうなカーテンライトが下がっていた。
夜はそれらが星のように輝き、冬の澄んだ夜空を演出するのだろう。
煌びやかな身なりの人々が店内に吸い寄せられるように消えていくのを見ると、なんだか感動してしまった。
秋人、素敵な演出だね。この景色はもう見たのかな?
つい心の中で彼に話しかけていると、近くで「瀬名、おはよう」と低くかすれた声が聞こえてきた。
「あっ……店長! おはようございます!」
ブラックのチェスターコートを着た貴船店長が、申し訳なさそうに眉を下げて笑っている。
「寒い中待たせて悪いな。さぁ、行こうか」
「はい、よろしくお願いします!」
今日は一月の後期から始まるバレンタインのイベントに向けての、会場視察にやって来たのだ。