秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
三人は私たちの前に立ち止まる。
秋人と、先日、ホテルでぶつかりそうになった女性は認識できた。
彼は呆気にとられた様子でこちらを眺めていたが、ほんのわずかに口角が上がる。
私を見て微笑んだと気付き、ぎこちなく視線を逸らしてしまった。
秋人と会うのは、先日自宅に送り届けてもらって以降初めて。
連絡先の交換もしていないため、彼が私に会いに来なければ顔を合わせることもない。
そう思って、油断していた。
可能性はあったとしても、まさかこんな場所で会うなんて夢にも思わなかった。
「吉田さん! 奇遇ですねぇ。今日は今度のイベントの設置場所を確認しに来まして……」
秋人の隣を歩いていた男性と、店長が楽しそうに会話を始める。
店長はその吉田さんという方が、葛城堂のイベント企画部の部長で、いつも対応してくれていると教えてくれた。
「貴船さん、あの、こちらが葛城堂の社長で……」
吉田さんが笑顔で秋人を振り返る。
「初めまして。葛城堂で代表取締役をしております。吉田から話は聞いておりました」
「まさか、社長とお会いできるなんて。あ、名刺交換をお願いしても……?」
店長の後ろでふたりのやり取りを眺めていると、ふいに誰かに見られている気がして、そちらに視線を動かす。
秋人の隣に立っている女性が私をジッと見つめている。
その冷えた瞳に怒りが滲んでおり、強い不安感に襲われた。
もしかして……。私の顔を見て、あの日のことを思い出したのかな。