秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています

秋人は私の返事に満足そうに笑うと、一歩前に出る。

動揺する私に向かって右手をまっすぐ差し出すと、首をわずかに傾げた。

「ありがとうございます、瀬名さん。これからよろしくお願いします」

まるで久し振りに会ったかのように、彼は他人行儀で微笑みかけてくる。

目の前にある骨ばった手を弱々しく握ると、力強く握り返された。

強く、逃がさないと訴えているかのようだ。

緊張しながら視線を僅かに上げると、熱が孕んだ目に捉えられる。

秋人。私、どうしたらいいの……?

「ふふっ、学生時代のご友人だなんてとても縁があるんですのねっ……」

歌うような女性の声に、絡んでいた視線を解く。

顔を上げると、美しい女性も私たちの前に一歩歩み出てきた。

「秋人さん、お仕事が残っているんじゃありませんか? 彼女もいきなりのことで戸惑っているようですし、そろそろ行きましょう」

「ああ、そうでした」

秋人はそっと私から手を解くと、貴船店長に視線を戻す。

「私は今からすぐ裏の本社に戻るのですが、少し瀬名さんをお借りすることはできますか? 折角だから、場所のご案内ができればと思ったんですが」
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