秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
隣に立っていた母の声にハッとし、手に持っていたじゃがいもを落としかける。
朝起きた非現実的な出来事が頭に浮かんできて、あれこれと考えてしまった。
秋人の心底驚いた顔を見て本当に“あのとき”に何が起きたか知らないのだな……と思った。
それがよかったことなのか、未だに分からない。
苦笑いしながら母を見ると、彼女は小皿に移した作り立ての味噌汁を味見しながら、怪しんだ目を向けてくる。
「もしかして……恋でもしてる?」
「ぶっ、何言ってんの! 今日仕事で色々大変だったから疲れただけよ……!」
「もー、なーんでそんな大変な花屋さんをわざわざ選んだのか母さんには分からない」
母は豪快に笑うと、カチッとガスのスイッチを落とす。
「近くのスーパーに入っているお花屋さんのほうが、ずっと金銭的にも体力的にも効率的に働けるのに。ま、音を上げたら近くで探し直しなさいねっ!」
「はいはい分かってます」
呆れたように告げると、母はにこっとわざとらしく私に笑いかけ冷蔵庫を開いた。
母は私が生まれる前から、ショッピングモールや百貨店で洋服の販売員をしている。
そして父はというと郵便局に新卒で入り、そこから三十年以上こつこつ真面目に働き続けているのだ。
私は真面目なふたりが好きだし、弱音を吐かず働いている姿を心の底から尊敬をしている。
けれど、少し奇抜な言動は受け入れられないタチで、私が美大に行きたいと言ったときは大反対された。
幼いころから密かに抱いていたフラワーデザイナーになりたいという夢だって、未だに告げたことはない。
これは仕事に限ったことではなく、“家族”そのものに対してもだ。
『未婚の母!? あり得ない!』