秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
会話の内容はよく分っていないけれど、あやめの笑っている顔を見ていると、私まで幸せな気持ちになる。
あやめはとても、秋人に好意的だ。
そして彼女を通し、秋人の新しい一面を知る。
子供に対して優しく、同じ目線に立って話してくれる人なんだ、と……。
「ままっ! おにいたん。ままにかわってって」
「そう、ありがとう。あやめ」
あやめからスマホを受け取り、私は母と父に会話が聞かれないようにと、部屋を出て自室の扉を閉める。
なんだか親に隠れてこそこそ電話するような、子供じみたカップルのようだ。
『あやめちゃん、俺のことかっこいいって言ってくれたよ』
「そうなの。この前秋人に会ったあとも、お兄さんに会いたいって言っていたし」
言ってしまってから、口をつぐむ。
まずい。このことは言わないと決めていたのに、うっかりしてしまった。
すると案の定秋人は『本当か?』と少々真面目な声で呟き、ふっと乾いた声をあげた。
『嬉しいよ、あやめちゃんに好いてもらって。俺もまた、会いたい』
「……うん。あやめもそれを聞いたら、喜ぶと思う」
秋人が沈黙したので、私もよい言葉が思いつかず口を結んだ。
ヘタなことは言ってはいけない、けれど、限界が近い気がする。
『―――結愛、来週はスケジュール的に難しいが、再来週あたりで会社の生け込みをお願いしたいんだが』
秋人はいつものように、落ち着いた口調に戻る。
「うん。そうしたら、明日店長に相談してみる。私の方は、イベントの準備が詰まっていない日であれば、大丈夫だよ」
「ありがとう。場所の雰囲気に合わせて、クリスマスを意識して飾ってほしい」
「分かったわ」
秋人の距離がとても近い。
こうして電話をして、次に会う予定まで決めてしまっている。
でももう、抵抗することはない。
流れに身を任せるしかないと、少し投げやりな気持ちだ。
『……結愛の声が聞けて嬉しいよ。明日も頑張れそうだ』