秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
来月に迫った銀座葛城堂のバレンタインイベントの準備が大体落ち着き、
私は今まで通り、店頭の販売スタッフとして働いていた。
隣で花の手入れをしている山根さんは、
昨晩も店長たちと都内で開かれるクリスマスイベントの準備で、夜遅くまで残って作業をしていたようだ。
「そういえば店長から聞いたわよ。瀬名ちゃん、葛城堂の社長の生け込みするんでしょ~! いつなの?」
山根さんは茶化すように肘で小突いてくる。
「えっと、明日ですね」
「きゃーっ、このまま彼と上手くいっちゃったりして」
「いやいや……本当にないです。私の作品を昔から気に入ってもらってて、呼んでくれることになっただけで」
山根さんはわざとらしく眉をひそめてきたので、私も対抗して頬を膨らます。
すると彼女は諦めたのか、切り替えるようにして豪快に笑った。
「まぁまぁ、人の恋路にとやかく言うものじゃないわね。何か困ったら相談してよ」
「ありがとうございます。でも、本当にないですよ?」
秋人が店長に昔からの知り合いだということを告げてから、私と彼の関係は店中に知られることとなった。
色々と質問されても、私が平然とただの知り合いだと答えるので、みな諦めて探ってくることはない。
唯一山根さんだけが、私たちの親密なやり取りを見てしまっているので、こうして茶化してくるけれど……。
「じゃ、私は裏で通販用の梱包をしてるから、何かあったら呼んでね」
「承知しました!」
裏に消えていく彼女を見送り、店を見渡す。
来客がいないことを確認し、私は店長が先程印刷した翌日の搬入票に手を伸ばした。
明日はイベントに使う生花以外の資材や造花などが諸々到着する予定だ。
ひとつひとつチェックをし、間違いがないか確認していると、カツカツ……とヒールの足音が聞こえてきた。視界の端に人影が映る。
「あら……よかった。あなた瀬名さんよね?」