秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています

三年前にあやめを妊娠し、相手とは結婚せずにひとり産み育てると母と父に告げたあの日は、修羅場だった。

『もう彼がどこにいるのかわからない。連絡先もわからない。でもこの子を産みたいの』

口数が少ない父は子供を育てることの大変さを説き、私の将来を危惧した。
少々気性の荒い母は、相手の名前をいわなければ勘当すると、そして次に自分の身を守らなかった私にひどく嘆いた。

ふたりはまだ若い、いくらでもやり直せると長い時間をかけて伝えてくれたけれど、最後まで私の意思は変わらなかった。

もうこれ以上愛せる人はいないと思えた相手の子供ができたのが嬉しくて仕方なかった。
一生結ばれないとわかっているから、彼が残してくれた最高のプレゼントだとさえ思った。

そして既にこのときにはもう、おなかの子が自分より愛おしい存在になっていた。
大好きな両親と一生会えなくても、おなかの子に会いたいと思ったのだ。

そう最後に私が伝えると、ふたりは泣いていた。
今思い出しても、とてもつらい時間だった。

私は臨月までひとりアパートで孤独に耐えていたけれど、母と父が実家で一緒に住もうと訪ねてくれたのだ。
そしてお腹の子を一緒に育てようとも言ってくれた。

「うさたん! りすさんは今度、ぶらんこであそびたいなぁ」
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