秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
うそ……。秋人、どういうこと……?
胸が苦しくなり、呼吸が浅くなる。
頭は真っ白で、彼女の言葉に上手く反応できない。
「あら、棘でも刺さってしまいました? 手が止まっていますわよ」
「っ、いえ……申し訳ありません。今すぐご用意いたします」
彼女の美麗な顔に覗き込まれ、はっと意識を戻す。
ぼんやりとした思考の中、私は手だけをひたすらに動かしていた。
意識は秋人に向いていたけれど、なんとか雪平さんが注文した薔薇の花束を用意する。
レジの前で財布を取り出しながら、雪平さんは思い出したように頬を緩めた。
「素敵ねぇ、この花束を見ると思い出すわ。彼と旅行に行ったときのこと」
「旅行……?」
信じられない内容の数々に、頭がついていかない。
秋人への想いが冷めていき、代わりに不信感が増してゆく。
「ええ、アブダビの夜景が見える場所でこんな花束をプレゼントしていただいたの。本当に夢みたいな時間だったわ」
「……ということは、雪平さんと秋人は、お付き合いされていたのですか……?」
思わず気になったことを尋ねると、彼女はくすっと照れたように笑った。
探るような目で私を見つめてくる。
私はただ体の震えに気付かれぬよう、カウンターの下で拳を握るしかない。
「秋人、ね。付き合っているというより……私たち、親公認の仲ですのよ?」