秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています

思わず奥歯を噛みしめ、自分の失言にも気づかない。

以前……秋人と再会してすぐ、雪平さんとの婚約を聞いたことがあった。

そのとき彼は、『結愛としか一緒になりたくなかったから、元から婚約をするつもりはなかった』と言っていたはずだ。

けれど目の前の彼女は、それを覆す内容を話している。

頭が混乱し、吐き気がしてきた。

秋人が事実を話しているのか、それともこの人の言っていることが正しいのか。

ただひとつ言えるのは、ふたりが親密な仲には違いないということ。

秋人の過去のこと、そして彼が大切な人の誕生日に花束をあげることがあるのも、彼女は知っている。

そして、私が秋人と偶然再会する際は、いつも彼女が隣にいる。

「じゃあ私はこれで。あ……それと」

笑顔で私から離れようとした雪平さんは、思い出したようにこちらを振り返る。

「変な気を起こして、私たちの仲を乱さないでくださいね? あなたと秋人さんはまったく釣り合ってない。よくて遊びなんだから」

「……っ」

歌うような口調で、とどめを刺された。

彼女に言われなくても、そんなの、私が一番痛いほど分かっている。

身分違い故に、私は彼を諦めたんだから。

あやめに父がいないものとして、育てていたんだから……。

でもここで、彼女に言い返すことはできない。

悔しさと虚しさと、自分の無力さを痛感する。

心が折れそうで、立っているのがやっとだった。
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