秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
今日初めて会った秋人の秘書の方にエントランスで指示を受ける。
朝、社用車で材料と道具一式を持ってきて、すでに現場へ運び終えていた。
「いえ、大丈夫です。大体一時間くらいで完成予定です」
「かしこまりました。終わりましたら内線十五番で秘書課に繋がりますのでお呼びください」
「ありがとうございます」
笑顔で別れようとしたそのとき、秘書の方は思い出したようにその場に立ち止まる。
「既に社長は出社していますので、十一時以降でしたら社長室への作業も可能と……申し訳ありません。伝言を失念しておりました」
「……いえ、とんでもないです。承知しました」
力なく答えると、秘書の方は安心した様子でその場から立ち去った。
数時間後には、秋人と社長室でふたりきりだ。
上手く笑える気がしない。
緊張で胃がぎゅうっと締め付けられ、軽いめまいが起きてしまう。
……でも。いくら絶不調だったとしても、仕事をおろそかにしちゃだめだ。
目の前の仕事に集中しようと言い聞かせ、私はエントランス部分の生け込みの作業に移る。
黒を基調としたこの場所は、赤をメイン色にしクリスマスのアレンジメントにすると決めた。
豊満に実ったヒメリンゴの枝を花瓶の中心に飾り、赤い薔薇とシルバーリーフのプンゲンスホプシーで世界観を作っていく。
予定通り一時間で完成させた私は、重たい足取りで秋人が待つ社長室へと向かった。
「失礼します。貴船フラワーの瀬名です」