秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
インターホンのボタンを押し、努めて明るく名乗ると、社長室の扉の鍵ががちゃりと解除された。
『どうぞ』
緊張で血の気が引き、ドアノブを掴んだ右手が震えている。
私はまだ、秋人への振る舞いを模索している最中だ。
「結愛、おはよう」
秋人は扉を開いてすぐの場所に、ダークブラウンのスーツを着て立っていた。
彼の包み込むような優しい笑みを見た瞬間、体を蔓延していた黒い感情がわずかに薄れる。
「……おはよう、秋人。今日はよろしくお願いします」
無理矢理笑顔を作って、彼の顔をろくに見ずに腰を曲げる。
顔の筋肉が緊張で固まっていて、気を抜くと無表情になってしまいそうだ。
「結愛、やっぱり元気がないな。……体調は、大丈夫なのか?」
秋人はすぐに、私の変化に気付いてしまう。
彼が一歩踏み出し、こちらに向かって手を伸ばした気配がして、私は反射的に後ずさった。
「!」
「う、ん……昨日はごめんね、今は全然平気。じゃあ、これから準備にとりかかるから、私のことは気にしないで」
顔をあげて、なんとか秋人に笑いかける。
今日は普段通りを心がけ、この時間をやり過ごそう。
そう心に決めて歩き出したのに、すぐに腕を掴まれ、彼は私を引き戻した。
「……っ!」
「全然大丈夫だという顔じゃない。体調が悪いなら無理をするな」