元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
「ザラ、こっちの書類も整理しといて。あと、レオンたちにこっちの書類も確認してくるように伝令飛ばして」

「……へーーい」


 魔法で書類をポイポイ飛ばしつつ、わたしは気の抜けた返事をする。

 こんな言葉遣い、この部屋以外で聞かれてしまったら、きっと不敬だなんだって騒がれることだろう。だけど、殿下は意に介していないみたいだし、今更変えろって言われても難しい。この裏表が激しい男の前で自分を取り繕うのは、何だか馬鹿らしく思えた。


「なぁ。おまえって、どうして自分を抑えてんの?」

「へ?」


 気づいたら、さっきまで椅子に座っていたはずの殿下が真後ろに立っている。おまけに彼は、書棚に両腕を付いて、わたしのことを取り囲んでいた。無駄に図体がでかいので、圧迫感が半端ない。努めて気にしないようにしながら、わたしは書類のファイリングを続けた。


「……別に、何にも抑えてませんよーー。抑えてたらこんな喋り方しませんって」


 実際、わたしがこんな話し方をする人間、殿下以外にはいない。友達と接する時だって、もっと控えめな話し方をするというのに、一体何を抑えているというのだろう。そう思うと、ついついため息が漏れる。


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